初めて「イージーライダー」を見たのは、確か高校1年の時だった。
当時、大阪には大毎地下劇場という名画座があった。洋画の2本立てが格安で見られたので、ぼくは月に数回はここに通い、映画館の暗闇の中であてもない夢を見たり、時間をつぶしたりした。
この大毎地下劇場にはレギュラーのプログラムとは別に、週末だけの名画鑑賞会のようなものが催されていて、通りを挟んで向かいにあった毎日文化ホールで2本立ての名画が500円程度で見られた。
しかし、このホールの座席はパイプ椅子。それに座り、長時間に渡って映画を見るのは少々つらかった。それゆえの低料金だったのだろう。
とにかく、ぼくが「イージーライダー」を初めて見た場所は、パイプ椅子が並べられた小さなホールだった。その時は「なんや、この映画。よく分からんけど、かっこええなあ」と思った記憶がある。
今、改めて「イージーライダー」を見てみると、ローバジェットの映画ながら、あの時代のアメリカでしか作り出せなかった空気感と色あせない哲学性があるような気がする。
しかし、当時の16歳の少年には焚き火を囲みながらのトリップなんて想像もできず、ヒッピーのコミューンは遠い世界のお話だ。さらには、ラストで主人公が唐突にショットガンで撃たれてしまう理由すら、よく分からなかった。
でも、ピーター・フェンダが時計を投げ捨て、バイクがアメリカの荒野を走り出した瞬間に「BORN TO BE WILD」が流れてくるシーンのかっこよさだけは忘れられなかった。
VIDEO 映画を見終わってから数ヵ月後にはサントラ盤を買って「BORN TO BE WILD」を何度も聴いたし「いつか、時計を捨てて、バイクに跨り、あてのない旅をしたいなあ」とも思った。
数年後、ぼくはバイクで北海道に渡り、そのまま1年以上も滞在してしまった。その時の縁もあって、今ではすっかり北海道の住人だ。
とにかく「バイクは旅の道具」と思い込むようになったのは「イージーライダー」からの影響(片岡義男というのも少しあるけど)である。乗っているバイクは派手なチョッパーではなく、タイヤの大きなオフロードバイクだったけれど、北海道の真っ直ぐな道を気持ちの良いスピードで流している時には「BORN TO BE WILD」のサビをよく口ずさんだものだ。
でも、腕には時計をしっかりと巻いていた。
特に行くあてもなく、時間にもしばれないような北海道の旅だったけれど、腕にはセイコーのダイバーズ・ウォッチがあった。
ぼくは冒頭のシーンで時計を投げ捨てる「イージーライダー」も好きだけど、たまに腕時計を忘れて外出すると、少し不安になってしまうほど、腕時計という存在も好きなのだ。
生まれて初めての時計は、中学校の修学旅行に行く前に買ってもらったセイコーの自動巻きだった。高校時代は当時はまだ珍しかったカシオのデジタル・ウォッチをしていていた。北海道をバイクで旅していた頃のセイコーのダイバーズ・ウォッチは10年以上も愛用したし、今でも夏になるとたまに腕に巻く。
最近ではウェンガーのクロノグラフやルミノックスのネイビーシールズといったミリタリー・ウォッチを愛用しているが、どの時計もアナログ・ウォッチだ。カシオのGショックなんてのも試したことはあるが、タフさは認めてもデジタルの表示どうにも好きになれなかった。
そんなデジタル嫌いを少し解消してくれたのが、去年の夏にここでも紹介した
スント(SUUNTO)のT1cというトレーニング・ウォッチ だ。
これをランニングする時にいつも腕に巻き、心拍数と消費カロリーなどを測定していたが、少々派手なオレンジ色という点を除いては、日常生活の中でも使いやすい時計だった。
そうなると他のスントの時計も気になってくる。
スントには様々なタイプの腕時計があるけれど、やっぱり定番のベクターが良さそうに思える。
高度や気圧、温度の計測できて、気圧と温度の差を計測する機能あって、コンパス付き。近頃では年に数回しか山に登らないし、昔ほどハードなアウトドア遊びをするわけでもないが、昨年神田の登山用品店で見たベクターの面構えが、ずっと気になっていたのだ。
というわけで、先月の終わりに「大きな仕事が終わったので、自分へのご褒美」という理由をつけて、スントのベクターを買ってしまった。
ぼくが手に入れたのは値段の安い並行輸入品。日本語のマニュアルがなくって、使いこなすのに少々苦戦はしているけれど、スントの公式サイトのマニュアルを見ながら色々といじくっているうちに何となく使い方が分かってきた。
ベクターを上手に使いこなせるようになれば、登山やトレッキングの良き相棒になってくれそうな気がする。何よりも老眼気味の眼には大きめの数字と液晶がありがたかったりして・・・・。
「今年の夏は、ちょっと本気で山に登ってみようか」という気持ちにさせてくれるスントのベクターも「イージーライダー」と違った形で、旅に誘ってくれる時計である。