2007.05.13 Sun
最高のシンガー、ボブ・ディラン

フォークの神様、最高の詩人、孤高のロックンローラー。ボブ・ディランに付く枕詞は色々とあるが、ぼくは最高の歌手ではないかと思っている。
ホントはとてつもなく唄がうまいくせに、わざとブレスを多用し、細切れのメロディーにして、聴く者を惑わせ、さらに「このオヤジ、わざと下手に唄ってやがるな」と感じる曲もあるから、さらに混乱は深まる。しかし、聞き込めば聞き込むほどに分かってくるボブの唄のうまさには、脱帽するしかない。
ぼくにとって最高のシンガー、ボブ・ディランを確かめるために、どうしても聴いておきたいアルバムがあった。1973年にリリースされた、その名も「Dylan」というアルバムだ。
このアルバムは、アサイラムレコードに移籍することに決めたボブへのCBSからの対抗措置のような1枚。ボブの意向や意思はまったく反映されず、レコード会社が「セルフポートレート」と「新しい朝」のセッションの未発表曲を集めて、勝手に作り上げたアルバムで、全9曲はすべてカバーである。
ぼくは「Dylan」を単なる中途半端なカバーアルバムと感じ、昔から「最後の最後に聴くアルバムだな」と思っていたので、レコードの時代も、日本のみで「世界初CD化」された時にも買わなかった。
しかし、実はこのアルバム、現在では絶版状態である。ボブから「あれだけは売ってはならぬ、聴かせてはならぬ」というお達しが出たらしく、いつの間にかラインナップから外され、新品のCDを買うことはできないのだ。
そのせいか、アマゾンでは中古盤にべらぼーな値段がついている。さすがに、こんな値段で中古CDを買う気にはなれず、入手困難だけに長い間「聴きたい」という想いだけがつのっていた。でも、1週間ほど前に、とあるリサイクルショップで「Dylan」を発見しちゃったのだ。しかも、ここでは書くのがはばかられるほどの値段で!ホント、想い続けていれば、願いはかなうものである。
ようやく、「Dylan」を手に入れることができてから、毎日のように聴いているのだが、このアルバムは想像していた以上に、素晴らしい。
1曲目のトラディショナルなフォークソング「Lily Of The West」からは、アメリカ西部の砂埃を含んだ風が吹く。2曲目のエルビス・プレスリーのかの有名な曲の「Can't Help Falling In Love」は、この時期のボブの声の特徴であるツルツル声ではなく、あえてザラザラ声で唄われる。これがまた、たまらなく良い。5曲目の「Mr Bojangles」は、ニッティー・グッリティー・ダート・バンドのバージョンが有名な唄だが、ボブの見事な唄いっぷりはそれを遥かに凌駕するほどだ。
7曲目のジョニ・ミッチェルの「Big Yellow Taxi」における「トゥー、パッ、パッ、パッ」というかわいすぎる女性コーラスは、ボブにあるじまき行為といえるかもしれない。でも、この曲もたまらなくステキだ。
フツーのボブ・ディラン像にしか興味がない人には、単に好きな唄を適当に唄っているだけにしか聴こえないだろうが、ボブを最高のシンガーと考えている人間にとって「Dylan」はたまらない1枚だ。
ぼくはこのアルバムを聴いて、ボブが自分の声のトーンを自在に操れることを確信した。でないと、同じ時期に録音した曲にツルツル声とザラザラ声が混在するわけがない。ボブは「あの時期はタバコをやめたから、声がきれいになったんだ」などと煙にまくようなことを言っているが、それはきっとウソである。
ボブはキャリアの中で、何度もその声質を意識的に変えてきたが、彼にとって声こそが最高の楽器であり、唄うことが最も好きな表現方法なのではないだろうか。しかも、ボブは自分の声のトーンを自由自在にコントールできる。最高のシンガーとは、ボブ・ディランのことである。
| ボブ・ディラン | 18:35 | comments:2 | trackbacks:0 | TOP↑














